半島を出て島を乗っ取り

村上龍『半島を出よ』をやっと完読しました。
長ったらしい漢字の役職名などはほとんど読み飛ばしましたが。


ごくごく大枠のストーリーだけを見ると、北朝鮮の秘密コマンドに福岡が占拠され、すわ九州占領&独立かという自体の中、世間の多数派の感覚に同化出来なかった少年たちが、世間のできない行動力で北朝鮮部隊を壊滅させるという、そう目新しいというわけではない破壊フェチな話です。


しかし、どんな題材であれ、ディテールを書く力があるというのは強いです。
相当取材と学習を行ったと思われる軍事・爆破・生物関係の描写も凄いですが、あれほど常識からかけ離れた個性を持つ登場人物の、
過去や瞬間に沸きあがる感情を、あれだけ説得力をもって描けるところが凄い。


多くの大人は、子供の頃の気持ち、思春期の頃の気持ちを忘れてしまうが、その感受性や想像力を少しでも保てるようでないと小説家にはなれない
…というようなことを耳にしますが、村上氏もそういう面に凄さを感じます。


読んでいると登場人物の少年たちに完全に共感できる、というわけでは決してないのですが、こういった感受性を持つ人間がいることを否定できないような淡々としたリアリティーがあります。


村上氏も、この本で日本の危機管理の見直しを呼びかけることが目的ではないでしょう。
小説家は、やっぱり外の世界の構造を云々するより内の世界の構造を云々する生き物でしょう。